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第三章 鏡の中の遊女

مؤلف: 佐薙真琴
last update تاريخ النشر: 2025-12-14 10:39:58

 根津の町に、初夏を告げる祭囃子が遠く聞こえる季節になった。だが、「あわい屋」の空気は張り詰めていた。

 お龍の病状が悪化していた。

 朝、布団から起き上がるだけで息が切れる。痰に混じる血の量が増え、色は鮮血からどす黒い凝血へと変わっていた。

 それでも、彼女は鑿を置かなかった。

 むしろ、取り憑かれたように制作に没頭していた。

 今の依頼品は、吉原でも指折りの太夫(たゆう)からの注文だった。

『普通の木では満足できない。私の肌に負けない、艶(つや)のあるものを』

 お龍が選んだのは、漆黒の「黒柿(くろがき)」だった。数万本に一本しか出ないと言われる、黒い紋様が入った希少な柿の木だ。その模様は、まるで墨を流したように妖しく、見る者を不安にさせる美しさがあった。

「……硬い」

 黒柿は石のように硬い。鑿の刃がすぐに零(こぼ)れる。

 お龍は何度も砥石で刃を研ぎ直し、脂汗を流しながら削り続けた。

 その作業中、夕霧が駆け込んできた。

 普段の落ち着き払った様子はない。顔色は蒼白で、髪も乱れていた。

「お龍さん! 大変だ!」

「どうしたの、藪から棒に」

「手入れだよ! 北町奉行所の!」

 お龍の手が止まった。

「吉原に?」

「違う、ここら辺の裏長屋一帯さ! 『好色本や淫具を作っている不埒者』を狩り出すって……今、隣の版木屋がやられた!」

 お龍は背筋が凍るのを感じた。

 いよいよ来たか。

 清次の警告通りだった。水野忠邦の「天保の改革」の余波が、この路地裏まで押し寄せてきたのだ。

「逃げなきゃ! 道具を持って!」

 夕霧はお龍の手を引こうとした。

 だが、お龍は動かなかった。動けなかったのだ。

 彼女の視線は、作りかけの黒柿の張形に釘付けになっていた。

「まだ……磨きが終わっていない」

「何を言ってるんだい! 命とどっちが大事なんだ!」

「これが私の命だよ!」

 お龍が叫んだ。その拍子に激しく咳き込み、床に鮮血を撒き散らす。

 夕霧は悲鳴を上げそうになるのを堪え、お龍を背中から抱きしめた。

「馬鹿っ……! あんたって人は……!」

 その時、表通りから怒声と、戸板を蹴破る音が聞こえてきた。

「御用だ! 神妙にしろ!」

 捕り手の足音が近づいてくる。砂利を踏む草鞋(わらじ)の音が、死神の足音のように響く。

「……隠そう」

 夕霧が言った。彼女の目には覚悟の色があった。

「床下だ。私が時間を稼ぐ」

「夕霧、あんた関係ないじゃないか。巻き込まれたら……」

「黙りな! 私は遊女だよ。男をあしらうのなんてお手の物さ」

 夕霧は素早くお龍の道具と作りかけの作品を、畳を上げた床下の収納スペースに押し込んだ。そしてお龍を布団に寝かせ、その上から乱暴に掛け布団をかけた。

「あんたは寝てな。死にそうな病人のふりをするんだ。……いや、ふりじゃなくていいか」

 夕霧は自分の着物の襟を大きく寛(くつろ)げ、胸元を露わにした。そして行灯の油を少しこぼし、酒の徳利を倒して、部屋中に酒と女の匂いを充満させた。

 ドカドカと、男たちが踏み込んできた。

「御用!」

 十手を構えた同心と、数人の岡っ引き。

 彼らは狭い部屋を見回し、布団に横たわるお龍と、その傍らで扇子をあおぐ夕霧を見て鼻白んだ。

「なんだ、この部屋は。……お前たちは?」

 夕霧が艶然(えんぜん)と微笑んだ。

「おやおや、無粋なお侍様たちだこと。ここは病気の妹を看病している、ただのあばら屋ですよ」

「商売女か?」

 同心が夕霧の格好を見て蔑むように言った。

「ええ、吉原の夕霧と申します。今日は非番でしてね。……何か、いけないことでも?」

 夕霧の名を聞いて、同心たちがざわめいた。吉原でも名の知れた高級遊女だ。

「……ふん。ここらで怪しい彫り物をしている女がいると聞いたんだが」

 同心が鋭い目でお龍を睨んだ。

 お龍は布団の中から、虚ろな目を向けた。演技をする必要はなかった。高熱で焦点が合わず、顔色は死人のように青白い。

「ゴホッ……ゴホッ……お役人様……何か……ご用で……」

 その声は掠れ、今にも絶えそうだった。枕元には血のついた懐紙が散乱している。

 同心は顔をしかめて後ずさった。労咳は感染(うつ)る。当時の人々にとって、それは死の病であり、恐怖の対象だった。

「……チッ。労咳持ちか」

 同心は懐から手ぬぐいを出して口元を覆った。

「おい、行くぞ。ここはハズレだ。こんな死に損ないに、精巧な細工など作れるわけがない」

 彼らは早々に踵(きびす)を返した。

 足音が遠ざかっていく。

 完全に気配が消えるまで、二人は動かなかった。

「……行ったよ」

 夕霧が大きく息を吐き、その場にへたり込んだ。震えていた。

「怖かった……」

 お龍は布団から這い出し、夕霧の背中に抱きついた。

「ありがとう、夕霧。ありがとう……」

「よしてくれよ。寿命が縮んだわ」

 夕霧は涙目で笑った。

 その夜、二人は暗闇の中で体を寄せ合った。灯りをつければまた見つかるかもしれない。闇の中での愛撫。

 お龍の指が、夕霧の肌を辿る。

 恐怖の反動か、夕霧の体はかつてないほど熱く、湿っていた。

「ねえ、お龍さん」

 闇の中で、夕霧が囁いた。

「もし、またあいつらが来たら……今度は隠し通せないかもしれない」

「そうね」

「逃げよう。清次さんも誘って、どこか遠くへ」

「……無理よ」

 お龍は静かに答えた。

「私の体は、もうここから動かせない。旅に出れば、三日と持たずに野垂れ死ぬわ」

「じゃあ、座して死を待つのかい!?」

「待たない」

 お龍の声には、奇妙な透明感があった。

「作るの。最高のものを。私が生きていた証を、この世に楔(くさび)として打ち込むような、そんな作品を」

 彼女の脳裏には、ある計画が浮かんでいた。

 それは、清次が見せてくれた解剖図から着想を得た、狂気のアイデアだった。

(普通の木ではだめだ。普通の漆でもだめだ)

 私の魂を宿すには、私自身の一部を材料にするしかない。

 お龍は自分の胸に手を当てた。肋骨の下で、心臓が早鐘を打っている。

 骨。

 私の骨を削り、粉にして、漆に混ぜる。

 あるいは、骨そのものを芯にして、木を被せる。

 そうすれば、その張形は文字通り「私の分身」となり、私が死んだ後も、愛する人の体内で生き続けることができる。

 それは仏教でいう「舎利(しゃり)」の冒涜かもしれない。九相図の腐乱死体が起き上がって踊りだすような悪趣味かもしれない。

 だが、お龍にとっては、それが唯一の救済だった。

「夕霧、お願いがあるの」

「なんだい?」

「明日、お寺に行って……『あるもの』をもらってきてほしいの」

 お龍の頼みを聞いて、夕霧は息を呑んだ。

 それは、あまりにも不吉で、しかし抗いがたい魅力を持つ提案だった。

 闇の中で、盲目の猫の目が、燐光のように一瞬光った気がした。

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